通訳と翻訳の違い

通訳・翻訳

通訳と翻訳の違い

オーストラリアのお客様でも、日本のお客様でも、通訳と翻訳を混同して使われる方が多くいます。一般の方にとっては違いがあまり明確に知られていないような気がしますので、簡単にご説明したいと思います。

 

目次

1 通訳と翻訳の違い

通訳と翻訳の一番の大きな違いは、言葉を口頭で伝えるか、文字で伝えるかという点です。JTIMはオーストラリア第二の都市メルボルンを拠点に活動する日本語と英語に特化した翻訳・通訳会社ですので、ここでは日英の2か国語をベースにお話ししましょう。

通訳とは

通訳とは、日本語を母国語とする日本人と、日本語を解さず、主に英語を母国語とする相手(オーストラリア人など)との会話を、その場で、同時に、または逐次的に訳して伝えるのが通訳です。通訳者は発言の限られた言葉から瞬時に内容を把握し、発言者の思いを汲んで、同じ口調、語調で相手に伝える必要があります。

翻訳とは

これに対して翻訳は、依頼主から文書を預かり、翻訳者が日本語の文書は英語に、英語の文書は日本語に訳す作業です。翻訳文書は多義にわたり、専門的な高度な文書も多くあります。このため翻訳者には日本語と英語の言語能力だけでなく、一定水準の専門性と知識も必要になります。

2 通訳と翻訳の特徴の違い

通訳の特徴

通訳は話された言葉を聞き、瞬時に内容や主旨を理解した上で訳出する必要があるため、迅速に文脈を察する能力が求められます。そのためには様々な分野における業界知識や専門知識を持った上でないと困難な仕事も沢山あります。また、通訳にはスピードも求められます。同時通訳では発言者と同じスピードで訳して行かないと、次の発言までに時間のギャップは一切ないため、訳出が終わらないうちに次の発言が始まってしまします。逐次通訳においては、発言した日本人は、自分の日本語を通訳者が英語に訳す間じっと待ち、それを聞いたオーストラリア人の英語の返事を通訳者が日本語に訳出した言葉を聞いて、やっとワンサイクルの会話が成り立つわけです。このため、通訳者がもたもたし、時間をかけて話すと、予定されていた議題が時間内に収まらなくなります。また、会話はテンポ、ノリ、も重要です。相手と共鳴し打ち解けて話ができれば互いに気持ちがリラックスし、厳しい内容の交渉も友好的に行いやすくなります。

通訳のスタイル(同時・逐次)については、別の記事で詳しくご説明します。

翻訳の特徴

翻訳は通訳とは逆で、時間をかけずに行うことはできません。今ではAIの進化で機械翻訳を活用しながら翻訳者が一定の作業を時間短縮して行えるようになりましたが、それでも専門的な用語や業界知識をしっかり確認しながら、最も適切な用語やコロケーションを選択し、読みやすい自然な文章にする必要があります。そのため翻訳者には、粘り強く手間をいとまない、慎重で妥協を許さないアプローチが必要です。普段ほとんどの人が違いを気にせず同じ意味として使っている単語でも、翻訳者は文脈の中でどちらがより適切なのかを追及し、最終的な訳語を決定します。翻訳は文字数を基準に料金が設定されているため、時間をかけずにより多くの文章を訳した方が効率的に稼げますが、経験が多い分野で繰り返し更新されるマニュアルなど、時間効率よく作業ができるもの以外は、確実で高品質な訳出をするために時間を惜しんではいけません。優秀な翻訳者を目指す人は、自身の目標を高く持ち、書き言葉のプロとして言葉の世界で技能を高めていく強いコミットメントを持ち、常に努力を重ねています。

3 通訳者と翻訳者に求められる能力と資質

通訳者や翻訳者に必要な能力には、努力して獲得できる能力と、持って生まれた素質や性格の両方があります。努力して能力を身に付けても、元々人前に出るのが苦手だったり、じっくり腰を据えて何度も慎重に見直す作業が苦手な人もいるからです。

通訳者に必要な資質と能力

  • 瞬発力 同時通訳では聞いてから話すまでの時間をいかに短くできるかが勝負です。同時通訳と逐次通訳の違いについては後で述べますが、日本語と英語の語順は全く逆になっています。日本語を最後まで聞かないと英語の文章を組み立てられない、という言語的な特徴にもかかわらず、同時通訳では耳に入ってきた言葉から訳して行かなければ間に合いません。
  • ボキャブラリ このため、広範なボキャブラリをネイティブと同等レベルで熟知しておかなければなりません。それには専門分野の用語も含まれます。また、同じ単語でも複数の意味を持つものが沢山あります。普段から語源レベルまで遡り、言葉が本来の意味から年月を経てどのように派生していったのかを知っておくのが重要です。
  • 知識 企業内通訳や省庁のバイリンガルスタッフと違い、外部の通訳者は言語の専門家ではあっても、その業界や分野の専門家ではありません。このため通訳者は仕事を引き受けるにあたり自分の経験に照らし合わせて十分な準備ができるかを判断しなければなりません。長年企業内の多様な分野を外部通訳者として担当したり、特定分野の仕事に深く関わった経験がない限り、引き受けた内容を十分に調べて、その分野の専門家の発言を即時に理解し通訳できるように周到な準備をする必要があります。
  • 言葉のセンス 意味は同じでも、どのような言葉で伝えるかで相手へのインパクトは変わります。効果的なコミュニケーションで最大限の効果を得るために、通訳者が相手に最も響く言葉を選んで訳出しなければ意味がありません。そのため通訳者は日ごとから多くの優れた文学、専門文献、報道やドキュメンタリー番組など、様々な媒体に触れて、言葉のセンスを磨いておく必要があります。
  • 度胸  通訳者は翻訳者と違って、お客様と直接対面して仕事をします。1対1の相談や打ち合わせから多人数参加する会議、何千人、何万人も見ている前で話すこともまれではありません。駆け出しの頃は誰でも人前での通訳は大変緊張するものですが、緊張してしまうと普段の実力がでなくなり、上手く通訳できなくなってします。大勢の人前で失敗すると益々気持ちが追い詰められて、その場で気を持ち直して挽回するのが難しく、トラウマになってしまうことさえあります。多少の緊張は気持ちが引き締まってよいかもしれませんが、上がらないためのリチュアルなどを決めて訓練すればある程度コントロールできるようになります。

翻訳者に必要な資質と能力

その場にいる人や、オンラインで参加している人が即時にコミュニケーションが出来るようにすることが通訳者の仕事なら、翻訳者が相手にするのは不特定多数の人です。

  • 国語力 日本語から英語への翻訳であれば英語力、の逆であれば日本語力、ということですが、あえて国語力と言ったのは理由があります。ここでは原文が英語である場合、英語を読み込んで意味が分かるだけでなく、それを適切なレジスターやコロケーションで日本語の文章に作り直すのが翻訳者です。そのためには日本語の文法、言葉の相性、時代性など様々な要素を適切に適用して、読みやすく、自然な日本語にできる高い国語力が必要です。
  • 洞察力 作成書かれた文書を翻訳された文書を読むターゲットオーディエンスをある程度想定し、レジスター(使用域)を決めて、ターゲットの社会的状況や知識的水準に合わせて、読み手が読んでわかる内容にする必要があります。
  • 言葉のプロとしての意欲 また翻訳は結果が活字となり後に残ります。一度翻訳して納品してしまえば、その後は相当数の人の目に留まることが想定されるため、訳出を最終化する際には相当時間をかけて言葉や表現が最も適切であることを校正します。

AIの活用で翻訳者へのニーズは大幅に減りましたが、言葉のプロとしてのセンスを培うために長年努力してきた優秀な翻訳者の技能は、今ではかえって希少価値になりつつあります。