オーストラリアのお客様でも、日本のお客様でも、通訳と翻訳を混同して使われる方が多くいます。一般の方にとっては違いがあまり明確に知られていないような気がしますので、簡単にご説明したいと思います。
通訳と翻訳の一番の大きな違いは、言葉を口頭で伝えるか、文字で伝えるかという点です。JTIMはオーストラリア第二の都市メルボルンを拠点に活動する日本語と英語に特化した翻訳・通訳会社ですので、ここでは日英の2か国語をベースにお話ししましょう。
通訳とは、日本語を母国語とする日本人と、日本語を解さず、主に英語を母国語とする相手(オーストラリア人など)との会話を、その場で、同時に、または逐次的に訳して伝えるのが通訳です。通訳者は発言の限られた言葉から瞬時に内容を把握し、発言者の思いを汲んで、同じ口調、語調で相手に伝える必要があります。
これに対して翻訳は、依頼主から文書を預かり、翻訳者が日本語の文書は英語に、英語の文書は日本語に訳す作業です。翻訳文書は多義にわたり、専門的な高度な文書も多くあります。このため翻訳者には日本語と英語の言語能力だけでなく、一定水準の専門性と知識も必要になります。
通訳は話された言葉を聞き、瞬時に内容や主旨を理解した上で訳出する必要があるため、迅速に文脈を察する能力が求められます。そのためには様々な分野における業界知識や専門知識を持った上でないと困難な仕事も沢山あります。また、通訳にはスピードも求められます。同時通訳では発言者と同じスピードで訳して行かないと、次の発言までに時間のギャップは一切ないため、訳出が終わらないうちに次の発言が始まってしまします。逐次通訳においては、発言した日本人は、自分の日本語を通訳者が英語に訳す間じっと待ち、それを聞いたオーストラリア人の英語の返事を通訳者が日本語に訳出した言葉を聞いて、やっとワンサイクルの会話が成り立つわけです。このため、通訳者がもたもたし、時間をかけて話すと、予定されていた議題が時間内に収まらなくなります。また、会話はテンポ、ノリ、も重要です。相手と共鳴し打ち解けて話ができれば互いに気持ちがリラックスし、厳しい内容の交渉も友好的に行いやすくなります。
通訳のスタイル(同時・逐次)については、別の記事で詳しくご説明します。
翻訳は通訳とは逆で、時間をかけずに行うことはできません。今ではAIの進化で機械翻訳を活用しながら翻訳者が一定の作業を時間短縮して行えるようになりましたが、それでも専門的な用語や業界知識をしっかり確認しながら、最も適切な用語やコロケーションを選択し、読みやすい自然な文章にする必要があります。そのため翻訳者には、粘り強く手間をいとまない、慎重で妥協を許さないアプローチが必要です。普段ほとんどの人が違いを気にせず同じ意味として使っている単語でも、翻訳者は文脈の中でどちらがより適切なのかを追及し、最終的な訳語を決定します。翻訳は文字数を基準に料金が設定されているため、時間をかけずにより多くの文章を訳した方が効率的に稼げますが、経験が多い分野で繰り返し更新されるマニュアルなど、時間効率よく作業ができるもの以外は、確実で高品質な訳出をするために時間を惜しんではいけません。優秀な翻訳者を目指す人は、自身の目標を高く持ち、書き言葉のプロとして言葉の世界で技能を高めていく強いコミットメントを持ち、常に努力を重ねています。
通訳者や翻訳者に必要な能力には、努力して獲得できる能力と、持って生まれた素質や性格の両方があります。努力して能力を身に付けても、元々人前に出るのが苦手だったり、じっくり腰を据えて何度も慎重に見直す作業が苦手な人もいるからです。
その場にいる人や、オンラインで参加している人が即時にコミュニケーションが出来るようにすることが通訳者の仕事なら、翻訳者が相手にするのは不特定多数の人です。
AIの活用で翻訳者へのニーズは大幅に減りましたが、言葉のプロとしてのセンスを培うために長年努力してきた優秀な翻訳者の技能は、今ではかえって希少価値になりつつあります。